名窯ヘレンドの世界へ Herend Minimanufactory Porcelain Museum

ヘレンド工房を訪ねて Herend Minimanufactory Porcelain Museum

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ⓇHerend Photo by Copy right ©Papp Hideko FinoMagazin

2022年6月の終わり。

かなり早めの夏季休暇を取り、バラトン湖方面へ。

ブダペストから車で順調に進めば2時間以内。

バラトン湖で過ごす夏休みの初日、私たちは、セーケシュフェヒールヴァールにあるヘレンド工房を最初に訪れました。

写真はヘレンド工房の外観を写したものです。

Herend ヘレンド ハンガリーが世界に誇る名陶 名窯 食器ブランド

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ハンガリーが誇る世界の名窯~ ヘレンド HEREND ~

何世代にも渡り、伝統と革新を大切に守り続ける名陶

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ヘレンドは約200 年の歴史を持ち、ハンガリーが世界に誇る美しい陶磁器ブランド。

現在、ヘレンドでは 約16,000 種類もの異なる形状の名器が製造され、また、その素晴らしい色合いを持つアイテム数は 4,000 近くにものぼるそうです。

世界中の陶芸ファンやアートコレクターが愛してやまない完璧なフォルムを持つヘレンドの陶磁器たち。

幸福のバタフライ

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賑やかな鳥や虫、自然の色のバリエーションをリアルに再現したヘレンドの柄。

富の象徴、ロスチャイルド・バード

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そして、下の写真右側に映る、鳥の姿が印象的な絵皿。

鳥のさえずりで心地よい森をイメージさせる柄からは、自然の恵みによる幸福と調和を感じ取ることができます。

この絵皿は世界の大富豪ロスチャイルド家にちなんで名づけられた、“ロスチャイルド・バード”という柄のシリーズです。

ロスチャイルド・バードの陶器シリーズは1860 年代からヘレンド セットとしてリリースされ、2023年の今日もなお、世界中の陶芸コレクターから末永く愛されている逸品です。

木の枝の周りに描かれた純金のチェーンは、銀行家であるロスチャイルド家の富を象徴しています。

ロスチャイルド・バードと、代表的な柄『アポニーグリーン』

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ロスチャイルド・オワゾー(鳥)は、ヘレンドの古典的な柄の中でも最も有名な柄の一つとして知られ、世界中の陶芸ファン、陶磁器コレクターの間で今も変わらぬ人気を誇っています。

そして、写真の上、棚の一番上に飾られているアポニーの絵皿について

アポニーというヘレンド作品を象徴するパターンの誕生は、さかのぼること19世紀後半、ハンガリーの有名な貴族で政治家であった、アルバート・アポニー・デ・ナギャポニー伯爵 ( 1846-1933 ) という人物に由来しています。
1930 年代、アポニー伯爵はヘレンドの『インドの華』 (インドの花籠) という柄を、さらに簡素化した柄の陶器をヘレンドに特注させました。

華美すぎず地味すぎず、程よく美しい『アポニー』という柄が独り歩きを始め、ヘレンド工房のコレクションの中でも世界的ベストセラーにまで上り詰めたアポニーグリーン。

今日、アポニーグリーンは、複数のカラーと複数の色を組み合わせて描かれています。

親切なガイドさんの誘導で、すべての製作工程をチェック

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ハンガリー首都ブタペストから約150キロ離れたヘレンド村にある、名窯ヘレンドの工房。

ヘレンドの工房でガイドをされている方から、取材の許可をいただき、本記事でご紹介している写真はすべて、昨夏、ヘレンド工房とその美術館で撮影したものです。

※本記事掲載の写真の無断使用、複製、転載を固く禁じます。

動画でも工房の様子をご覧いただけます

どのようにして、職人たちの手により、素晴らしい名器の数々が生まれていくのか、動画をご覧いただくとその全容の一部が視覚的にお分かりいただけると思います。

レクチャーを受けながら、息をのむほど美しいヘレンドの世界を堪能

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ヘレンド村は、ハンガリーにおける芸術的な陶磁器生産の聖地でもあります。

少し前までは、その素晴らしい芸術作品の誕生の瞬間を垣間見ることができたのは、ほんのごく一部の限られた関係者のみだったそうです。

そんな貴重な機会が今日、どなたでもヘレンド工房を訪れ、製造工程を見学させてもらえるようになり、陶芸ファンにとっては大変喜ばしいことですね。

THROWING ろくろ成形

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このようにして(粘土の)ペーストを石膏型に成形していきます。

「ろくろ」と呼ばれる回転台の上に粘土を乗せて、回転させることで成形していく方法を「ろくろ成型」と言います。

私たちの記憶にある、いわゆる陶芸のイメージは、ろくろ成型中の姿かもしれませんね。

現在は電動で回転する「電動ろくろ」が主流ですが、以前は「蹴ろくろ」という足で蹴ることで回転させるろくろが使われていたそうです。

『ひもづくり』FINAL TOUCH-UPS

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編み込みカゴ(バスケット)の成形作業は、ひも状にした粘土を巻いて、個別に取り付けることで仕上げていきます。

陶芸の製作工程では、ひも状にした粘土を積み上げていく作り方を「手びねり」または「ひもづくり」と言うそうです。

PORCELAIN ROSE – FIRST PETALS

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上の写真に写るヘレンド・マイスター(女性)が行っているのは、陶器本体に取り付ける取っ手の部分を成形する過程です。

エレガントなシェイプの取っ手部分と様々なローズ(ディテール)モチーフを組み合わせ、妖艶な花びらの形を表現し、仕上げていきます。

PUTTING THE FIGURE TOGETHER

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上のマイスター女性は、ヘレンドの人形を粘土で作っています。

よく見ると、粘土を平たくして土台の底を作っているのが写真からわかりますね。

透かし彫り オープンワークの作業工程

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ヘレンドの造形師が持つのはとても特殊な両刃のナイフ。

そのナイフを使って、非常に正確にヘレンド独自のオープンワーク(透かし彫り)の作業を行っています。

ヘレンド陶器にある小さな穴はこのように、ひとつひとつマイスターによる丹念な手作業で作られているのです。

PALETTE 絵皿 陶器の絵付け

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Herend Victoria ヘレンド・ヴィクトリア

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美しい蝶と牡丹の花が鮮やかなこの柄は、ヘレンドが世界にその名を轟かせるきっかけになった『ヴィクトリア』というシリーズです。

1851年、当時、世界の覇者であった大英帝国、その首都ロンドンで世界初の万国博覧会が開催されました。

博覧会開催時、ヘレンドはまだ無名の陶器ブランドにすぎませんでしたが、出品されていたヘレンドセットが幸運にもヴィクトリア女王の目にとまったのです。

それは、ヘレンドの二代目オーナー、モール・フィッシャーが、ヴィクトリア女王をイメージして製作した、蝶と牡丹模様の食器(陶磁器)セットでした。

世界の王侯貴族に愛されるヘレンドの食器セット

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FIGURE PAINTING ヘレンドフィギュアの色付け作業

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ヘレンドのフィギュアは、さまざまな方法で装飾されています。

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ヘレンドの花瓶・飾り壺

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こんなに大きい、ヘレンドの花瓶

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ヘレンド工房の廊下に飾られた絵皿

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賞味一時間だった気がしますが、ガイドさんによるレクチャーを聞き終わり、ヘレンド工房の見学を終えた後、隣にあるヘレンドのカフェに向かいました。

ヘレンド工房の一角にある、ヘレンド・カフェ

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このヘレンド工房の見学コースは、コース料金の中にドリンク一品の代金も含まれていた覚えがあります。

ブルーのカーテンと絨毯が印象的なヘレンド・カフェの室内空間。

アポニーグリーンのティーカップに注がれたカプチーノ

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素敵なカフェ巡りが趣味でもある筆者。

今までハンガリー国内、主にブダペストですが、さまざまなカフェを訪れてきましたが、カプチーノを飲む際、こんなに緊張が走った瞬間はありません。

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我が家のように、小さなお子さん連れのファミリーで訪れる場合は、余計に緊張しそうです。

世界の名窯ヘレンドの美しく繊細なティーカップを持つのに緊張を覚えるゲストの様子を察してか、フローリングを絨毯にしているのかもしれませんね。

インテリア空間のひとつひとつにおもてなしのエッセンスが垣間見られ、心地よいコーヒー( &ティー ) ブレイクとなりました。

透かし彫りのフルーツバスケット

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ⓇHerend Photo by Copy right ©Papp Hideko FinoMagazin

ヘレンド・カフェのカウンターに飾られていた、透かし彫りの美しいバスケット。

ずっと眺めていたくなるほど、細部にいたるまでヘレンド陶器で満たされた、素晴らしいインテリア空間でした。

ヘレンドの歴史 1826年~1929 約1世紀

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ヘレンド・カフェを後にし、通りをはさんで真向いに面するヘレンドの美術館へ。

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館内にディスプレイされていた絵画の写真を掲載しながら、美術館サイトに掲載されている『ヘレンドの歴史』情報を、本記事でもさらっとお伝えしていきますね。

1826年 ヴィンス・スティングルがヘレンド工場を設立

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ショプロンで生まれ、ウィーンでファインセラミックス産業の技術を学んだヴィンス・スティングルは1826年、ヘレンド工場の祖となる陶磁器製作所を設立しました。

1839年 モール・フィッシャーが工場の経営を引き継ぐ

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ヴィンスはさらに工場を繁栄させ、製作現場ではモール・フィッシャーが手腕を発揮。モールヴィンスの後を引き継ぎ、ヘレンドは全盛期を迎えます。彼は国際基準でも高品質の陶磁器を生産するためにできる限りのことをしました。

1842年 第1回ハンガリー工芸展

下級貴族出身で当時ハンガリーで傑出した政治家であったコシュート・ラヨシュはヘレンド陶磁器について「ハンガリー国内の芸術産業の歓迎すべき発展の装飾的なしるし」として歓迎しました。

1843年 工場での火災

1843 年 3 月、放火によって引き起こされた大火でヘレンド工場は焼失。

大損害を負いましたが、後にヘレンドの巨匠たちによって磁器の絵皿にヘレンドは不滅として保存されることになりました。

1846年 産業展示会

ヘレンドは、ペシュトで開催された工業展示会で金メダルを獲得しました。

1851年 最初の世界展、ロンドン

ヘレンドの世界における最初の成功:

イギリス・ロンドンで開催された万国博覧会にて、故ヴィクトリア女王は、モール フィッシャーが彼女にちなんで命名した蝶の花模様のヘレンドセットを注文しました。

それ以来、そのシリーズはヴィクトリアブーケとして、世界に知られています。

1855年 パリ万国博覧会

新しい市場を獲得するため、ヘレンドは 1855 年にパリで開催された第 2 回世界博覧会に向けて準備を開始。

このパリ万国博覧会で、ヘレンドは再び一等賞の栄誉に輝いたのです。

世界博覧会でのプレスたちの反応が大変良かったことは、今後のヘレンド工場の稼働に、多大な好影響をもたらしました。

1872年 モール・フィッシャーは貴族の証明書を受け取ります

オーストリア・ハンガリー二重帝国(ハプスブルク)皇帝ヨーゼフ・フェレンツは、ヘレンド工場のオーナーにハンガリーの貴族の称号を与えました。

それ以降、ヘレンド2代目のモール・フィッシャーは、タタ(ヴォルフスハウス)にある自身の家族の名前にちなんで、ファーストネームのファルカシュハージーを名乗るようになりました。

1873年 世界展、ウィーン

ウィーンで開催された万国博覧会。

オーストリア・ハンガリー二重帝国(ハプスブルク)皇帝、フランツ・ヨーゼフはギフト用にヘレンド陶器を購入することが増えていき、ヘレンドの存在はますますその名を世界に知らしめることになったのです。

1874年 モール・フィッシャーが引退

1874 年、Farkasházi モール フィッシャー (Mór Fischer) は工場を息子たちに譲りました。が、彼の息子たちはヘレンドの独占権をそれほど重要視していませんでした。

1884年 製造所を株式会社に変更

Herendi Porcelángyár Rt. という名前で設立された会社が、ヘレンドの会社経営を引き継ぎました。

その主な目的は、ヘレンドの労働者が蓄積した専門知識と芸術的スキルを保存すること。

そんなヘレンドの新しい合同会社に対しハンガリー政府は、 12 年間の免税と無利子の融資という多大な支援を続けました。

1896年 Jenő Farkasházy が新監督に

その合同会社はのちに、モール フィッシャーの孫 Jenő に工場を譲渡しました。Farkasházi の Jenő Fischer (1863-1926) は訓練を受けた陶芸家であり、 Ungvár 磁器工場で勤務したバックグラウンドがありました。

1897年 職業訓練の開始

ファルカシャージの考えはハンガリー政府に支持され、1897 年 7 月 1 日から、彼は年間 4,000 フォリントという国からの補助金を得て、トランスダヌビアで職業見習い訓練という雇用機会の創出を組織した最初の人物となりました。

1900年 Jenő Farkasházy の成功

祖父の芸術的遺産を尊重し、それに従い、新しい工場主のアールヌーボー製品は、世紀の変わり目に世界の展示会で認められ、受賞しました。

1901年 世界展、サンクトペテルブルク

サンクトペテルブルクで開催された国際陶磁器展で、ヘレンドは金メダルを獲得しました。

1904年 万国博覧会、セントルイス

1904 年のセントルイス博覧会と世界博覧会で、ヘレンドは再び最も名誉ある賞である金メダルを獲得しました。

1914年 戦争の難しさ

1914年から、第一次世界大戦はヘレンド工場の稼働に多大な困難をもたらしました。

戦時中は交通量が最小限に抑えられたのです。

ヘレンド工場の従業員のほとんどはハンガリー軍に従事していたため、工場はほとんど稼働できないという危機に陥りました。

1923年 Ⅱ.合資会社

ヘレンド工房は再び合資会社に変わり、Jenő Farkasházy がアーティスティック ディレクターを務め、Dr. ジュラ・グルデンがマネージングディレクターとなりました。

1929年 Ede Telcs はアート コンサルタントです。

1929年から、イーデ・テルクスはヘレンドのアート・コンサルタントに任命されました。それ以来、ヘレンド作品の芸術的方向性は大きく変化し、小さな彫刻のデザインへと移行していきました。

続きは次の記事に…

次回は、美術館2階に展示されたヘレンドの名品たちが登場

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ⓇHerend Photo by Copy right ©Papp Hideko FinoMagazin

ヘレンド工房とヘレンドカフェ、その向かいにあるヘレンド美術館について、駆け足でご覧いただきましたが、いかがでしたか?

次回は、ヘレンド美術館2階に展示されている、世界の名窯ヘレンドの逸品の数々をフォトギャラリーでお見せします。

ヘレンド・フォトギャラリーの記事もどうぞお楽しみに♪

取材撮影協力…Herend Minimanufactory Porcelain Museum , ヘレンド工房・ヘレンド美術館 / Kossuth Lajos u. 139, 8440 Herend, Hungary

取材・撮影・文 … Papp Hideko ( パップ英子 )

FinoMagazin Owner, フィノマガジン運営者 , Hungary Japan Wine Association Chairwoman , 在ハンガリー・ハンガリーワイン協会・会長 , Creative Director , クリエイティブディレクター, Copy Writer, コピーライター, WSET Level 3 ( Higher Certificate certified by Wine & Spirits Education Trust ) , FinesseWinepia Owner , ハンガリーワイン専門サイト・フィネスワインピア運営者

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